駅のベンチで電車を待っていた時、
隣に赤ん坊を抱いた夫人が座った。
子供好きな俺はついジッと見てしまった。
それに気付いたのか
夫人が聞いてもいないのに話しかけてきた。
「これね、実はバッグなんですよ」
そういうと赤ん坊の服をめくり、
お腹についたジッパーを見せてくれた。
そう言われてみれば確かに、
目玉もガラス玉で出来ているようだ。
「へぇ、良くできてますね」
「ええ、結構難しいんですよ、
時間もかかるし、でもリサイクルが好きだから」
と笑顔で答えて、
丁度来た電車に乗って、
行ってしまった。
俺も同じ電車に乗るはずだったが、
ベンチから立ち上がる事が出来ず、
去っていく電車を見送った。
【解説】
夫人は
『リサイクルが好きだから』
と言っている。
つまり、
「赤ん坊をカバンとしてリサイクルした」
ということになる。
赤ん坊の皮を使ってカバンを作った。
それが事実かどうかはわからないが、
そう頭に思い浮かんでしまったら、
語り手がベンチから立ち上がることができなかったのも頷ける。