むかし僕が住んでいた家に、
泥棒が入ったことがある。
その泥棒は家を荒らして金目の物を手に持つと、
そそくさと逃げて行ってしまった。
その時は家に誰もいなかったし、
僕がそれを伝えれるはずもないので、
傍観していることしか出来なかった。
両親が家に帰って来ると、案の定
「何だこれは!」
と散々散らかった部屋を見て驚いていた。
父さんは警察に電話し、
母さんは盗まれた物を確認した。
数時間後、
警察の事情聴取が終わり、
二人が家に帰って来た。
帰ってくるなり母さんは
家の畳の敷かれた座敷に座り、
僕と向かい合って言った。
「怖かったでしょう。ゴメンね」
僕と母さんの視線が合うことはなかった。
【解説】
語り手はすでに死んでおり、
幽霊として存在していた。
そのため、語り手とお母さんの視線が合うことはないし、
泥棒が入ってきたことを伝えることもできなかった。