うちは4人家族。
でも本当は6人家族になるはずだった。
妹は双子の予定が、ひどい難産で1人が流産。
母親もその時の負担が原因で早くに死んでしまった。
高齢の婆さんと親父、おれと妹の亜美で暮らしている。
亜美は昔から周りに迷惑ばかりかけていた。
婆さんは事あるごとに流産したのが絵美じゃなければと言っていた。
ひどいもんだ。
そんな婆さんも段々ぼけが進み、
亜美のことをしょっちゅう絵美と呼ぶようになってきた。
その頃からだ、
亜美の様子が少しおかしくなったのは。
日によって口調も性格も全く変わっておとなしくなる。
しかも、その時はおてんばな時の記憶があいまいらしい。
逆もまた同じ。
婆さんは亜美の中に絵美がいると言って聞かない。
まさかこれが二重人格ってやつか?
ある日、亜美がおれに聞いた。
「お兄ちゃんは亜美と絵美どっちが好き?」
おれは、昔から見てる分亜美の時の方がしっくり来ると答えた。
亜美はとてもうれしそうだった。
それ程、親父と婆さんは絵美をかわいがっていたのだ。
その日、初めて絵美と親父、婆さんが大げんかをした。
次の日、親父と婆さんが死んだ。
血まみれの亜美が立っていた。
全く記憶がないと言う。
おれや近所の人の証言もあり、
亜美は二重人格による心神喪失で不起訴となった。
今、おれは亜美と2人で住んでいる。
なぜだろう、
あの日以来絵美とは一度も会っていない。
今もたまに聞かれる。
「お兄ちゃんは今でも亜美の方が好き?」
【解説】
亜美は絵美を演じていただけで、
二重人格ではなかった。
理由は殺人による罪から逃れるため。
また、亜美ではなく、絵美に裏切られる形で殺された方が
大きな絶望を与えられるという考えもあったために
絵美として手を下したのだろう。
二重人格を信じ込ませるために
長い時間をかけて練られた計画殺人だった。
語り手に行った
『お兄ちゃんは亜美と絵美どっちが好き?』
という質問は、
語り手を殺すかどうかを決めるためのもの。
『亜美の時の方がしっくり来る』
と答えたため、
語り手を殺すのをやめた。
しかし、亜美は完全に語り手を信じたわけではないため、
たまに同じ質問をすることで、
まだ殺すべきかどうかを探っている。
語り手は気付いていないが、
受け答えを間違えたら
亜美に殺されてしまうことになる。
亜美と喧嘩し、
「絵美の方が良かった!」
なんて言ってしまったら
その時点でおしまいだろう。
亜美と喧嘩しないことを
祈るばかりである…。