これは僕と彼女ののろけ話だ。
その日は真夏日、
僕は布団から身震いしながら起きた。
クーラーの温度は16℃、
隣にいる彼女に寝起きのキスをしながら起き上がった。
よだれなんか垂らして可愛いな…。
タバコを吸った後部屋にファブリーズを振る。
歯を磨き彼女の名前を呼びながらまたキスをする。
同棲しだして半年か…
ただの自慢だが
僕は彼女が世界で一番綺麗だと本気で思っている。
昨日散らかした風呂の掃除をした後
今日の手術の事を考えていた。
僕は実は外科医をしている。
「道具を買いに行かなきゃな…
17時から腹部の切開、麻酔はいらないな…
そろそろ乗ろうと思っているバスが来る時間だ…」
扇風機の音以外何も聞こえない静かな昼下がり、
僕もまたうとうとしてきた…
すると急に彼女が起き上がり
僕の腕をつかんでこう言った。
「お願いあのバスには乗らないで!」
…夢でも見たのかな?
でも君のお願いだ。
聞かない訳にはいかない。
僕はファブリーズを部屋に振り
家を出た。
乗るつもりだったバスは見逃し、
タクシーを探す。
不幸にも
いきなり突っ込んできたトラックにハネられ
僕は死んだ。
【解説】
彼女はすでに死んでいる。
『昨日散らかした風呂の掃除』
というのは、
前日に彼女を殺し、
風呂場で血抜きをしたから。
クーラーは16℃に設定し、
腐敗を遅らせている。
さらに臓器を取り出して、
彼女をできるかぎり良い状態で保存しようとしていた。
しかし、語り手は死んだ彼女の言葉通り、
乗るつもりだったバスを見逃したために時間がズレ、
その結果、事故によって死んでしまった。
彼女としては、
遺体のまま、一生手元に置かれるのが嫌だったのだろう。
死んでしまった彼女の言葉よりも
このような行動に出る語り手の方が怖い話。