訳が分からねぇ…
俺が一人暮らししているこのアパートに殺人鬼が住んでるらしい。
そんな噂が飛び交う様になって一週間、
隣の家の奴がとても怪しい…
いや、アイツに違い無い。
なぜなら…
奴は帰る時間がバラバラだったり、
やたら大きな荷物を持って出掛けるのもよく見る。
目つきも異常だし…
極めつけは昨日だ!
確かに女の悲鳴が聞こえた。
奴も俺が気付いた事に気付いてた…
あの目つき……
などと考えていたら
二軒隣の家の人がゴミ出しに玄関から出てきた。
隣の奴について聞こうかと思ったが
俺の形相があまりに激しかったのか
逃げる様に去って行った…。
殺されてたまるもんか…
俺は包丁を手元に置いて過ごす事にした。
あぁ…もう限界だ…
恐怖に耐えるにも限度がある。
ウチのアパートは退去するまで一ヶ月はかかる…
もう待てない。
本当に殺人鬼かどうかだけでも確かめてやる。
一応俺は包丁を背中に隠し
荒々しく玄関に向かい、
彼女の靴を蹴り飛ばしながら
隣の部屋のインターホンを押した。
『ガチャ…』
奴が家から出てきた。
俺「いきなりすいません、お聞きしたい事が…」
そう言いかけた時
奴の手に光る物に気付き
背中に隠していた包丁を胸に向かって突き出した!
……ほぼ同時のタイミングだった。
くっそ!まぢかよ…
俺はそれらを手早くゴミ袋に詰め込むと
いつもの様に車に乗って捨てに行った。
このアパート気に入ってたのにな…。
訳が分からねぇ…。
【解説】
語り手は3人。
最初の一言は殺人鬼から始まり、
その後から一人暮らしの男性、隣の男性、殺人鬼という順番で
3人の視点が出てくる。
まず最初の一人暮らしの男性が殺人鬼が住んでいることで疑心暗鬼に陥り、
包丁を常に手元に置くようにした。
そこに同じく疑心暗鬼に陥った隣の男性がやって来た。
お互い手元にある包丁で刺し、
同時に死亡。
そこで、二軒隣のゴミ出しをしていた
『隣の奴について聞こうかと思ったが
俺の形相があまりに激しかったのか
逃げる様に去って行った…』
という男が現れる。
逃げるように去っていったのは
殺人事件について聞かれるのも怖かったし、
もしかしたらゴミ自体に遺体が入っていたから。
その二軒隣の殺人鬼は
一人暮らしの男の玄関の前で死んでいる2人の男に動揺しながら、
今回は関係ないにも関わらず、
これがキッカケで自分の犯罪がバレることを嫌がり、
慣れた手つきで手早く死体をゴミ箱に詰め込み処理した。
殺人鬼からしたら
なぜ二人が死んでいるのか理解できず、
『訳が分からねぇ…』
と言っている。
それにしても…
玄関前で死体の処理をしていたら、
誰かに見られているものだと思うのだが…。
なので、結局この殺人鬼は捕まりそうである。