私にはよく通うラーメン屋がある。
味はさほど美味しいわけではないが、
店主のおじさんと親しくなったため何となく鞍替えもできず、
ガラガラの店に足しげく通い続けているのだ。
先日行ったとき、
なんだかいつもより店内が広くなった気がしたのだが、
すぐにバイトの娘がいなくなったのだと気づいた。
「おじさん、あの元気のよかったバイトの娘、辞めちゃったの?」
「ああ、店もこんな状況だしねえ…首を切るしかなかったんだよ」
「そっかぁ…かわいかったのに、残念だね(笑)」
元々この店にはおじさん以外に3人ほどバイトがいたのだが、
これでみんないなくなってしまった。
そういえば客が減り始めたの、
その頃からじゃなかったかなぁ。
「スープの味が変わった」
とか言っていた気がする。
翌々日、再び店を訪れると、
相変わらずおじさんが1人でスープを作っていた。
仕込みで何かしくじったのだろうか、
左手が包帯でぐるぐる巻きにされている。
「おじさん、腕どうしたの?大丈夫?」
「あぁ、大丈夫。
それよりお客さん、
やっぱりうちももう閉め時みたいだ」
やはりな、と思ったが、
一応馴染みのよしみで理由を聞いてみる。
「スープのね、
ダシを仕入れることができなくなりそうなんだ。
うちのは他の店のとはちょっと違ってるから」
「そうなんだ、残念だね」
「ま、私の体にも限界があるからね」
おじさんは笑う。
私もつられて笑い、
もう飲めなくなるかもしれないスープをすする。
気のせいか、
一昨日のものよりも味が細い、
年取った鶏からダシを取ったような味がした。
【解説】
店主は人骨でダシを取ったスープを飲ませていた。
バイトの娘は文字通り「首」を切られ
ダシとして使われていた。
もちろん、他のバイトたちも。
材料となるバイトが尽き、
店主は自分の腕を切り落としてダシを取り始めた。
『私の体にも限界がある』
というのは、ダシを取る部分には限界があるということ。
バイトの娘たちをダシにしたのも恐ろしいが、
知らずにそれを飲まされた常連たちもたまったものではない。
でも、これと似たような事件を聞いたことがあるような…。