ガチャ
ドアが開く音がしたのでビックリして玄関に向かった。
一人暮らしなので誰もかえって来ないはずなのである。
俺「ど、どちらでしょう?」
相手「それは答えなければ行けないですか?」
俺「もちろん!」
相手「では逆に質問しますが、あなたは何ですか?」
俺「俺は瀧口義正だ!」
相手「いえいえ、あなたは瀧口義正ではありません」
俺「はぁ!?何言ってんだ?
俺は瀧口義正!お前に何がわかるんだよ!!」
相手「私には何もわかりません。
しかし、あなたが瀧口義正であると言う証拠はあるのでしょうか?」
俺「俺は今まで瀧口義正として生きてきたし、
みんな俺のことを瀧口義正だと知っている」
相手「それはあなたや、あなたの周りの方の単なる思い込みであり、十分な証拠とは言えません」
俺「じゃあ俺も聞くけどお前は何なんだよ?」
相手「私は瀧口義正です」
俺「はっ?!同姓同名なんて都合のいい話があるかよ?嘘ついてんじゃねぇぞ?!」
相手「またそうやって嘘だと思い込む。
人の思い込みほど都合良く信用ならないものはありません」
俺「………」
俺は言い返すことが出来なかった。
本当に俺は瀧口義正なのだろうか?
このままここに居ても良いのだろうか?
そんなことを思っているうちに相手はこう言ってきた。
相手「私も以前は自分自身何者であるかわからなくなったものです。
先輩といっては何ですが、先輩からアドバイスをすると、
自分探しの旅に出ることです」
俺「そうか……そうだな!旅をしよう!!」
相手「そうしなさい。あなたはまだ若い。
いずれ自分が何者であるかわかる時が来るはず。
私の様に…」
俺「じゃあ行ってくる!」
相手「頑張るんだぞ!!」
こんなやりとりをして俺は家を出た。
数十年後
とある住宅地に差し掛かった。
まだ自分自身がよくわからない。
そんな時アイツの言葉を急に思いだした。
俺はようやく全てを理解して、決心をした。
ガチャ…
【解説】
訪れてきた「相手」は未来の「俺」で、
最後に訪ねようとしているのが数十年前の「俺」。
追い出し、追い出された者は同じ用に追い出すという無限ループ。
これで気になるのは
『まだ自分自身がよくわからない』
なんて言っているけど、
自分探しをして意味はあったのだろうか?ということ。
自分のことなんて完全にわかるものではないから、
自分探しはある程度のところで切り上げないといけないと思うが、
『まだ自分自身がよくわからない』
なんて自分探しに数十年をかけているように思える。
それは果たして充実した人生だったのだろうか?
数十年前の「俺」にも同じことを行おうとしているのだから、
充実した人生だったと思いたいが…。