俺の学校は文武両道を校訓としていて、
スポーツが盛んだ。
推薦なんかも一杯とっていて、
かく言う俺もその一人だ。
地元じゃちょっとは名を馳せた俺だが、
ここへ来てからというもの、
毎日監督から謂れのない暴言を吐かれる。
到底敵わないライバルだって出来た。
いっそサッカーなんか辞めてしまおうかと何度も思う。
しかし部活を辞めれば、
勉強の出来ない俺は退学しなければならない。
それくらい厳しい高校だったのだ。
ある日、特別メニューをこなした俺は一人寮へと急いでいた。
山奥にある学校なので夜になると恐ろしい程静かだった。
目の隅にうつる真っ暗な校舎が恐怖を十割増しにしている。
いつもなら見ないように心掛けているのだが、
その日はつい校舎を見上げてしまった。
すると白いもの屋上からが落ちてくるではないか。
まさか…幽霊?
怖かったが見てしまった以上、
確認する他ない。
俺は校舎に行って、付近を調べた。
幽霊は、いなかった。
何も見なかった事にしよう。
そう思って寮へ帰っていった。
また別の日の事。
その日はチームメイトと一緒だった。
何気なく校舎を見やると、
白い影が屋上から落ちていく。
しかも時間を置いて何度も何度も。
「おい、あれ…」
我慢できなくなって言葉を漏らした。
「屋上から何か落ちてないか?」
「こんな時に怪談かよ?」
「洒落になんねーぞ」
「違うんだ、
本当に何か白いものが落ちてるんだよ」
「どこだ?」
「何も見えないけど」
「今だって落ちてる!」
「はいはい、
エース様ともなると心労がたえませんなー」
最近レギュラーをとった俺は
しばしばこういう皮肉を言われる。
「気のせいだよ、お前疲れてんだよ」
「早く飯食って寝よーぜ」
深夜。
あの白い影が頭をちらついて離れない。
何故俺にしか見えなかったのだろう。
皆の言う通り疲れているのか?
どうせ気になって眠れないならもう一度見に行ってみよう。
校舎に着くと、今度はいた。
あちこち折れ曲がった姿で何度も落ちてくる。
間違いない、幽霊だ。
俺はたまらなくなって叫んだ。
「やめろよ、もう死んでるんだぞ!?」
そいつはぐちゃぐちゃの顔をこちらに向けて言った。
「お前が来た時には生きていたんだよ」
【解説】
最初に屋上から落ちてきた白いものは
幽霊ではなく、
『到底敵わないライバル』だった。
ただ、その時点では生きていたものの
語り手は自分がレギュラーになるために
『何も見なかった事にしよう』
と帰った。
その後、予定通りレギュラーになった語り手だが、
白い影が落ちる光景にどんどん病んでいってしまった。
白い影は幽霊とも言えるかもしれないが、
まだ生きていたにも関わらず助けなかった罪の意識で生み出した錯覚とも言えるだろう。
…屋上から飛び降りた時点で体はボロボロなはずだから
そこで助けてもそのライバルが復帰することは到底無理だと思うのだが…。
『到底敵わないライバル』
と考えているくらいだから、
生きている限り自分がレギュラーになれることはないという
自分自身を過小評価していたとも言える。
悲しい限りである。