今日は私の誕生日。
仕事を早めに終えて帰ると、
マンションの自分の部屋の明かりがついていた。
見ると、黒いスーツを着た男性が、
目が合った途端に慌ててカーテンを閉めた。
「お兄ちゃんでも来てるのかな?」
と思った。
私には兄がいて、
よくイベントがあると家に来る。
急いで自分の部屋に帰った。
ドアを開けると、
玄関に兄のスニーカーがあった。
「ただいま~、また隠れてるの~?」
と言った。
兄は私がいない時に家に来ると、
必ずし部屋のどこかに隠れている。
隠れられそうな場所はクローゼットか風呂場しか無いのだが、
探すのもめんどくさいので、
「お兄ちゃん、ありがとう」
とメールをした。
すると、
クローゼットから着信音がし、
兄がブツブツ言いながら出てきた。
「メールするなんて卑怯だぞ!」
「だってめんどくさかったんだもん」
「まぁいいや、
それより今日泊まりたいんだけどいいかな?」
「全然OK!泊まってきなよ」
「じゃあ、俺風呂入れてくるから、飯の準備頼む。
お前、冷蔵庫に立派なの用意してあるなっ」
「わかったよ~」
冷蔵庫を開けるとなるほど、
豪華な料理とケーキが入っていた。
「お兄ちゃんやるね~!!」
なんて思いながら料理を温めた。
「準備完了!
それにしてもお兄ちゃん遅いな…
入れかたわかんないのかな?」
【解説】
語り手は
『豪華な料理とケーキ』
を兄が用意したものだと思っている。
しかし、
『お前、冷蔵庫に立派なの用意してあるな』
と兄は言っている。
つまり、兄は料理やケーキといったものは
一切準備していない。
『黒いスーツを着た男性』
は兄とは別人のストーカーである。
『兄のスニーカーがあった』
とあるため、
兄の服装についての記載はないが
おそらく兄はスーツ姿ではなかった。
ストーカーは風呂場に入っていて、
兄はそのストーカーに殺されてしまったか…
音も立てずに兄を口封じするとか、
ストーカーは相当手練と言えよう。
服装について語り手が気づかなかったのは
家の中には兄しかいないと思っていたから、
服装のことなんて特に気にしていなかったのだろう。
思い込みというのは
そういう情報を全て排除するため。
ただ、
『目が合った途端に慌ててカーテンを閉めた』
慌ててカーテンを閉めたのであれば
結構な音がしているはず。
兄よ、不思議な音に気づきましょう…。
というか、いつからクローゼットの中にいたのか
少し気になるところでもある。