『えーん、うぇーん』
またか。
俺の住んでるアパートにはここひと月、
隣の部屋から子供の泣き声が絶えない。
このアパートには子供がいる家は、
隣の部屋だけだ。
虐待じゃねーだろうな。
しつけが行き過ぎて虐待になってるパターンってやつ?
それとも実際に虐待が日常的に行われてるパターン?
勘弁してくれよ。
せっかく角部屋の閑静な物件見つけて静かな生活を送ってたのに。
しかも引っ越してきたんなら、
挨拶のひとつもしてこいよ。
これだから若くして親になる奴はダメなんだよ。
常識ねぇーし。
『えーん、うぇーん』
また泣き出した。
うるせぇ。
こういう時は児童相談所?に電話した方がいいのか?
めんどくせぇ。
ま、もう少し様子を見て、
こんな事が続くようなら電話しよう。
『えーん』
はぁ。
いい加減にしてくれねぇかな。
翌日、俺の家のドアをノックする音で目が覚めた。
ドアを開けると女性が立っていた。
『お休みの所すみません。
先日隣に越してきた中野といいます。
よろしくお願いします』
なんだよ、若い母親かと思ってたら、
30代くらいの母親じゃねぇか。
俺『はぁ。よろしくお願いします』
中野『なにかご迷惑なことがありましたら、
何でも言ってください』
俺『あぁ、はい。わかりました』
中野『では、失礼しました』
そう言うと、中野はドアを閉めようとした。
そうだ、子供のこと忠告しておくか。
『あの、もう少し優しくしてあげて下さいね、お子さん』
俺『え?』
中野『え?』
【解説】
壁の中に子供…がいるはずもないので、
壁と壁の間に幽霊の子供がいる。
赤ちゃんの泣き声はひと月ほど、
「先日隣に越してきた」というのがどのくらいかわからないが、
一ヶ月近くも挨拶に来ないなら、
さすがにもう挨拶には行かないと思うのだが…
と考えると、
隣がいないときからすでに子供の泣き声がしていたのではないだろうか。
…一体何があって急に子供の泣き声が聞こえるようになったのだろうか…