目を覚ますとおかしな場所にいた。
ドアも窓も無い白く四角い部屋の中。
狭い部屋の真ん中に一枚の紙だけが落ちていた。
「聴こえてくる音と同じ音を鳴らして下さい」
「同じ音を鳴らすのを止めれば毒ガスが出てあなたは死にます」
見ると天井の端に小さな通気孔がある。
天井は妙に高く通気孔には届きそうにも無い。
全く意味がわからない。
一体何がどうなっているんだ?
考えを巡らせながら、
とにかくジッと耳を澄ましていることにした。
この紙に書かれた通りに音が鳴るのを待つしか無い。
それがきっと脱出のきっかけになるはずだ。
一体何時間経ったのだろう。
何もせずただジッと耳を澄まし続けていたが、もう限界だ。
俺がこうやってジッとしているのを
どこかでニヤニヤしながら見ているに違いない。
「ちくしょう!!何なんだ!!出してくれ!!」
堪えきれず壁を思い切り叩きながら思わず叫んでしまった。
すると程なくして
四方から壁を叩く音と共に叫び声が聴こえてきた。
【解説】
『四方から壁を叩く音と共に叫び声が聴こえてきた』
これは語り手の四方にも同じ造りの部屋があるということ。
語り手が
『ちくしょう!!何なんだ!!出してくれ!!』
と壁を思い切り叩きながら叫んだため、
四方の部屋にいた者も同じ行動をし、
同じように叫び声をあげた。
聴こえてくる音と同じ音を鳴らさなければいけないため、
四方から聴こえてきたものに対して
語り手もまた同じ音を鳴らさなければならない。
つまり、語り手が思い切り壁を叩き、
叫び声をあげたために
この行動を永遠と繰り返す必要がある。
そして、力尽きた人が死んでいき、
最終的に一人だけ残るシステムか?
ずっと同じ行動、同じ言葉を発するだけでも
発狂しそうであるが、
生き残るために別の音を混ぜてくる者もいそうである。
となると、どんな音が聴こえてくるのかを常に意識し、
それと全く同じ音を出さなければならないため、
四方から音が聞こえなくなるまで
神経を研ぎ澄ませておかなければならない。
想像するだけでも疲れてしまいそうな状況である…。