ケンちゃんがいってた、
『あっちの裏山は変なにおいするぞ、
ひとつも木が生えてん場所すっぱいにおいするもん』
僕は家に帰ってばぁちゃんに聞いてみたら、
『裏山はいくな』
ってすっぱい匂いは薬のにおいだっていってた。
薬ってなに?ってきいたら
『溶けるくすり、酸っぱい所いったらだめよ、
いっちゃん溶けたくなかろ?』
怖くなって僕は絶対行かんっていった。
でも翌日ケンちゃんに誘われてついてった
僕はいきとなかったけど
僕が溶けるっちいったら
『行こう』って。
『うさぎで実験しよ、溶けるのみてみよ』
ってケンちゃんがウサギ殺してもって行った。
でもすっぱいにおいする場所に置いてもなんもおきん、
『埋めて明日こよ』って。
僕は夜急に怖くなってばぁちゃんと寝た
ばぁちゃんに生き物って溶けるね?
ってきいたら
『いっちゃん裏山いったん?』
って少し怖くなって行ってんっていったら
『もういかんよ、おやすみ』
って僕は安心して眠った。
翌日ケンちゃんとウサギ見にいったら、溶けてた。
ケンちゃんと喜んで、
僕はまた何か埋めようって約束した。
翌日は犬埋めていった、鶏も埋めた、
中学いっても埋めてた。
僕は楽しかったけど、
ある日ケンちゃんが
『違うの埋めん?』
って、
違うのって何?
『石田ムカツかん?』
って、僕は別にムカツかんかったけど、
石田溶けるの見たかったから。
翌日裏山で石田をケンちゃんが殺しよった
僕はあまり怖くなかったけど、
石田の泣き声が大きかったからそれが腹たった。
ケンちゃんに、
石田のこと俺もムカつくいったら笑ってた。
その夜家に警察きた
僕ばれたと思ったけど何もなかった。
次の日ケンちゃん所にも来たって
次の授業はなくなってそのかわり、先生が
『石田君が昨日から帰っていない、みんな何かしらんか』
っていってた。
学校終わって裏山いったら、石田溶けてた。
でも、ケンちゃんともう辞めよって話して
それ以来会わんくなった。
僕は近くの鉄工業に就職して、
ケンちゃんは東京いきよった。
ケンちゃんと会って、最後に酒飲んでたとき
『ごめん俺あの後も殺しちょった。
いっちゃん殺しだめだわ、癖なる』
その後分かれて、ケンちゃん東京いきよった。
最近僕のばぁちゃんがおかしくなってきよる
朝も夜もあーあー言って、
ばぁちゃん大丈夫かいっても何も反応せん。
僕が仕事遅くかえってきたとき、
久しぶりに口聞いた
『いっちゃん、殺して殺して殺して殺して殺して』
って、僕イヤいってもずっといってた。
ばぁちゃんの首細かった
白目向いてる時
ケンちゃんの言葉思い出してた。
朝になる前にばぁちゃんを埋めにいった。
僕は明日早かったから、
仕事いったけどずっとばぁちゃんの事考えてた、
早く溶けんかなおもってた。
でも全然ばぁちゃん溶けん
だんだん臭くなるしだんだんムカついてきた
ばぁちゃん片目でずっと僕を見てた。
なんでばぁちゃんだけ溶けん、
溶けろ、
臭い、なんで、なんで、なんでばあちゃんこっち見とんのなんでなんでなんでなんでなんで
【解説】
今まで埋めていたものをばぁちゃんが溶かしていた。
そのため、ばぁちゃんを埋めても
ばぁちゃんは溶けない。
『最近僕のばぁちゃんがおかしくなってきよる』
と、おかしくなったのは
『ケンちゃん東京いきよった』
とケンちゃんが東京に行った後。
そのケンちゃんは東京に行く前に
『ごめん俺あの後も殺しちょった。
いっちゃん殺しだめだわ、癖なる』
と言っていた。
となると、
ケンちゃんがいた時は殺されたものが裏山に埋まっていたが、
東京に行った後は何も埋められていなかったのだろう。
そして、ばぁちゃんが
『いっちゃん、殺して殺して殺して殺して殺して』
と言っている。
これはおそらく
「自分を殺して」ではなく、
「殺して、裏山に埋めて」
ということ。
ケンちゃんが
『ごめん俺あの後も殺しちょった。
いっちゃん殺しだめだわ、癖なる』
と、殺しが癖になると言っていたのと同様に
ばぁちゃんも埋められていたものを溶かすことが癖になっていたのだろう。
語り手のいっちゃんは
『ケンちゃんの言葉思い出してた』
そして、ばぁちゃんを殺して埋めた。
ケンちゃんの言葉を
「今までも殺しを続けていた。
でも、僕ですらわからなかったのだから、
自分も殺して埋めればわからないだろう」
と思ったのか、
それとも、
「殺すと癖になる」
と思ったのか、両方なのかはわからないが、
結局語り手はイヤって言っていたにも関わらず
ばぁちゃんを殺して埋めてしまった。
でも、溶かしていたのがばぁちゃんのため、
ばぁちゃんの遺体は溶けることはなく、
語り手はこれからも溶けないばぁちゃんに悩まされる日々を送りそうである。