私の実家には、蔵がある。
第二次大戦の戦火にも耐えたという、
がっしりした由緒ある蔵だ。
先日、実家へ帰った折、
退屈しのぎに、その蔵へ入ってみた。
はしごを登り二階に上がると、
不意になにかが、
私の首筋をなぜたような気がした。
同時に、子供のような声が耳元で小さく
「ナタデココ」
とささやいた。
驚いて辺りを見回すが、
もちろん、子供の姿などあろうはずがない。
その替わり、私は、蔵の中の太い柱を見て、
また混乱してしまう。
そこにも「ナタデココ」と
稚拙な横書きの文字が彫り付けられていたのだ。
【解説】
戦前なので読み方は右から左。
つまり、
『ナタデココ』は
「ココデタイ」
とのこと。
つまり、蔵の中から外には出られない。
となると、語り手もそのまま閉じ込められ、
一生を終える可能性も…
って、今の時代だったら
語り手が携帯電話を持っている可能性もあるし、
簡単に助けを呼べそうだが、
蔵だけ電波が通じなくなっていたら恐ろしい…