妻を殺した。
よみがえるのが怖くて、執拗に首を絞めて確実に殺した。
郊外の竹やぶに遺体を運び、深く掘って、入念に埋めた。
家に戻ってからも、震えは止まらなかった。
今にも泥だらけの妻が、玄関をノックしてきそうだった。
翌日の夜、恐怖に耐えられず確かめに行った。
再び車を遠く遠く走らせ、竹やぶにたどり着いた。
昨日と変わらぬ光景を見て、少しでも安心する気だった。
…なんということだ。
生い茂る竹やぶの中で、妻が折れた首をかしげながら、
こちらを見つめてまっすぐに立っているではないか。
俺は悲鳴を上げて逃げ出した。
ただただ恐怖に震え、闇雲に車を走らせながら、妻に許しを請うていた。
しかし、妻は追いかけてはこなかった。
驚いたことに、事件として報じられることもなかった。
あれはいったい何だったんだろう…。やはり幻覚か…?
それから、長い月日が経って、俺はやっと気がついた。
あれは孟宗竹のイタズラだったんだ。
今ごろ妻は、はるか頭上で骨となって揺れているのだろう。
【解説】
語り手は前日に埋めて、翌日の夜に確かめに行っている。
埋めた時間帯がわからないが、
1日~1日半ほど経っていると考えられる。
竹は1日に1m以上伸びることもあると言われているため、
成人女性の平均身長(160cmないくらい)であれば、
殺した妻が立っているように見えるほど
竹が伸びていてもおかしくはない。
そのため、殺された妻がまっすぐ立っているように見えたのは
竹が成長したためである。
そんな竹であるが、
「地震のときは竹藪へ逃げろ」
なんて言われるほど、
竹は根っこが強く、
地面はガチガチになっていると言える。
しかも、孟宗竹であれば
他の竹以上に根っこが強いだろう。
そんな場所に人を埋めるほど深く掘るとか、
この語り手の執念が恐ろしいと言えるのではないだろうか…