ある田舎から出てきた同僚と、
飲みに行ったときのことだ。
飲みながらお互いの故郷の話をした。
彼の故郷はど田舎だが、
過疎や商売で悩むことはないらしい。
俺の故郷も田舎だが、彼の故郷とは正反対だ。
興味を持った俺は、彼にいろいろ尋ねてみた。
「町で何か特別なことでもしてるのか?」
「いや、俺たちはなにもしてないよ」
「じゃあ、何か有名なものでもあるのか?」
「ああ、それなら・・・」
彼は名所と思われる場所をいくつかあげたが、
聞いたこともないところばかりだ。
それから彼は、
近々故郷へ帰って家業の宿屋を継ぐということを、
嬉しそうに話してくれた。
その日は早めに切り上げることになり、
別れ際に彼は寂しそうに言った。
「もし俺の故郷にくることがあったら、
ぜひ知らせてくれよ。
表向きは歓迎できないけど」
【解説】
『彼は名所と思われる場所をいくつかあげたが、
聞いたこともないところばかりだ』
『表向きは歓迎できないけど』
という言葉から
ある一定の人にとっては名所ではあるものの、
それが喜ばしいものではないと予想される。
となると、この名所というのは自殺の名所か?
自殺の名所はネットで有名になっていくため、
普通の人は知らなくても、
自殺しようとする人にとっては有名になり、
勝手に人が訪れてくるだろう。
なので、同僚の故郷では何もしていないのも頷ける。
『過疎や商売で悩むことはないらしい』
自殺する人が増えることで、
最後に散財する人もいるのだろう。
なので、商売で悩むことはない。
商売で悩むことがないから、
過疎化もしないということか?
『表向きは歓迎できないけど』
という言葉は
語り手が自殺しにくるなら当然歓迎できないし、
ただ遊びに来るだけでも「自殺しに来た人」と見られて
表向きには歓迎できないのだろう。
そう考えると、活気がある故郷のようには思えないのだが…
なんだか陰気くらい場所のように感じてしまい、
同僚の家業の宿屋にも何か得たいの知れないものが出てしまうのではないか、
なんて感じてしまう。