物心ついたときから俺は学園で生活していた。
そこに居たのは、自分と同じ境遇の子供ばかりだった。
A子とは、その学園で一緒だった。
中学を卒業してからは、学園の仕事とアルバイトをしながら
定時制の高校に通った。
ある製造工場に就職が決まったので、会社の独身寮に入るため
学園を去った。
何年かが過ぎたある日、電車の中でA子と再会した。
A子は赤ん坊を抱いていた。
喫茶店で近況を話すうちに、職場に来ていたお客と親しくなり
同棲していた事、妊娠が解ったら男が逃げた事、職場を解雇された事を聞いた。
それから毎日のようにA子が家に来るようになった。
(寮は成人したら出て行く決まりだったので、ボロアパートを借りていた)
A子は一緒に住みたいと言ったが、自分の給料では3人の生活は無理なので、
学園に戻らせてくれるように頼めと言った。
3日ほど来なかったので学園に戻ったんだろうと思っていたらA子が来た。
「子供はお母さんにお願いしてきたから、ここに住んでいいでしょう?」
と言った。
俺はとんでもない間違いを犯してしまった事に気付いた。
【解説】
『自分と同じ境遇の子供ばかりだった』
とあることから
学園=児童養護施設だろう。
なので、
『子供はお母さんにお願いしてきたから、ここに住んでいいでしょう?』
とA子は言っているが、
これは学園に預けてきたということ。
そのため、A子の子も同じような境遇になってしまった。
ただ、本当にお願いしたのだろうか?
実はお願いではなく、
学園の前に捨ててきたのではないだろうか。
A子からすると、
子供のことなんてどうでもよかったのだろう。