小学生の頃、町外れにある廃墟へ行くと、
性格が真逆になるという噂があった。
俺はそういうオカルトに目がなかったので、
すぐに親友の横山英二をつれて、廃墟に向かった。
廃墟に着くと俺たちは一瞬息を飲んだ。
昼間だと言うのに異常なほど薄暗い…
ふと横山を見ると、ガクガク震えて
今にもちびりそうな顔をしていたので、
「なんだそのTシャツ、ダッセー!名字アピるなってw」
と横山を弄って落ち着かせようとした。
しかし横山は
「やっぱり帰ろうよ…ヤバイよ…」
と、すっかり引け腰モード。
仕方なく俺は、半ば強引に横山を引きずり込んで
中へ入って行った。
中へ入ると、思いの外、物はなく、
大きな鏡が一枚あるだけだった。
見たところ、何の変哲もない鏡…
拍子抜けした俺は、横山の後ろに回り込み「ワッ!」と驚かした。
すると、横山は大きく後ろに飛び、そのまま鏡にぶつかった。
その時、一瞬光ったように見えたが、大して横山に影響はなかった。
帰り道、
「所詮、噂なんてこんなもんか…」
などと愚痴をこぼしているとクラスメイトの大倉和志と遭遇した。
大倉は、噂を信じて廃墟に行った俺たちを馬鹿にして、
ついでに横山のイニシャルTシャツも馬鹿にした。
馬鹿にされた事がよほど悔しかったのか、
横山は大倉を思いっきり殴って、唾を吐いた。
【解説】
横山英二のTシャツを最初は名字アピと言っていたが、
後半ではイニシャルTシャツと言っている。
つまり、
ヨ ⇒ E
に反転してしまったということだろう。
だからわざわざ横山英二とフルネームで…
また、
『性格が真逆になるという噂』
があったようだが、
前半の引け腰モードを見る限り、
『横山は大倉を思いっきり殴って、唾を吐いた』
まで大胆なことができるようには思えない。
確かに性格が真逆になったように思えるが、
Tシャツの文字が反転していることから、
性格が真逆になったわけではなくて、
鏡の中の住人と入れ替わってしまったということなのだろう。
大倉は噂を馬鹿にしているため、
一度廃墟にやってきて試したのかもしれない。
しかし、おそらく発動条件は
鏡に触ることだったのだろう…
それにしても、小学生で相手に唾を吐くとか、
なんと末恐ろしいことか…