生きることに絶望したが、死ぬ勇気すらない。
自分に保険金をかけて受け取り人を母親にした。
女手1つで僕を育ててくれた。
本当に感謝している。
だけど、もう生きていたくないんだ、だからせめて…。
そんな時約束通りそれは姿を現した。
「いい子だ。何か頼みごとだろ?
私のことを誰にも言わないと約束したら叶えてあげよう。」
僕の願いは『死』だ。
死んだら誰にも言えない。
「本当にいいんだな。次私が戻った時に願いを叶えよう。
その前に対価をもらうが構わないか?」
死んでしまうのだから構わない。
「分かった。契約成立だ。では少ししたらまた来る。」
最後に母親と話したい。だけど何を話そう。
30分ぐらい考えたがいつも通り母親と話すことにした。
階段を降り母親がいるはずの台所に行くがいない。
リビングで寝ている母親を見つけた。
胸にはナイフが刺さっていた。
【解説】
語り手は母親のことをすごい大事に思っている。
姿を現した者は『悪魔』だろうが、
悪魔が提示した『対価』というものが、
母親のことだろう。
語り手の唯一の心残りは母親である。
その母親を『対価』として奪うのは…。
とても大事な母親が死んでいるのを見た語り手は、
発狂してもおかしくないし、
もう生きている意味すら見つけられないだろう。
死ぬ勇気がなかったようだが、
母親の死にもう何も考えられず、
悪魔が手を下さなくとも
語り手自身で自殺を図ってしまいそうである。
本当に大事な人を奪う、
唯一の心の残りを奪う。
語り手を一番苦しめることのできる方法を選んでいることから、
この『姿を現した者』は『悪魔』と呼ぶにふさわしい。