俺はお袋の男癖の悪さの産物で出来た存在だった・・・。
ガキのころから素行は悪く
いわゆる「鼻つまみ者」である。
今はお袋もくたばって肉親もいない、
職もなく人生の先も見えない。
ところがこんな俺を
「愛している」といってくれた女性がいた。
優しかった、
チンピラ同然の俺に彼女の両親も優しかった。
涙が止まらなかった。
「私の故郷の村に来て欲しい」
俺は村で落ち着く決心をした。
「良かったわね、いい人が見つかって」
「しかし本当に家族や親戚はいないのか?よく確かめたか?」
「大丈夫、いないって言ってたわ」
「これで村も安泰ですね、お父さん」
【解説】
彼女は語り手を故郷の村の生贄にしようとしている。
『しかし本当に家族や親戚はいないのか?よく確かめたか?』
天街孤独の人の方が後腐れもなく、
問題にもなりづらいため
きちんと確認している。
優しくされることに泣いてしまうような人生を送ってきた語り手であるが、
結局その優しさは語り手に送っていた優しさではなく、
生贄にするための優しさであると考えると悲しいものである。