「ただいま…」
彼女が仕事から帰ってきた。
「…おかえり。」
帰りが遅いことにムッとしながら俺は答えた。
彼女が玄関と部屋の電気をつけると、
ミケ(飼い猫)が駆け寄って出迎える。
いつものように彼女はミケの頭を優しく撫でた。
「何でこんなに遅くなったんだよ?」
「ゴメン、すぐにご飯作るからね。」
彼女はキッチンに向かい、
包丁を取り出しながら
誰かに電話をかけはじめた。
俺の携帯が鳴り響く。
彼女からの着信だ。
?
なぜ…?
「ねぇ…どうして出ないの?」
振り返ると彼女と目があった。
彼女の瞳から目が逸らせない
【解説】
『彼女が玄関と部屋の電気をつけると』
と電気がついていなかったことからも
語り手は部屋の中にはおらず、
盗撮している、もしくは隣から覗いている。
いつものように見ていたら
なぜかこの日は語り手に電話をかけてきた。
『ねぇ…どうして出ないの?』
と言って彼女は語り手と目があったため、
明らかに語り手の覗きがバレている。
『彼女はキッチンに向かい、
包丁を取り出しながら
誰かに電話をかけはじめた』
とあることから、
これから語り手を刺しに行くという意思表示だろう。
早く逃げなければ殺されてしまう。
彼女からすれば
覗かれていることが恐怖だが、
(しかも一緒に住んでいるかのように声をかける語り手が恐い)
語り手からすれば覗きがバレ、
包丁を出しながら自分に電話をかけている様子を見るのは
背筋が凍る思いだろう。
想像するだけでホラーのようにゾッとしてしまい、
体が固まってしまいそうである。
『ゴメン、すぐにご飯作るからね』
これが語り手の…
だったりしないよね?