遠くからパトカーのサイレンが聞こえた。
「やっと警察がきたようですね」
と探偵が言った。
あたしは、いましがた、その探偵にすべてを見抜かれ、
命の尊さについて教えられた結果、
潔く刑に服すことを約束したばかりだった。
やつらのせいで狂死した夫の復讐は、
途中で潰えたが、なぜか清々しい気分だった。
「約束は守ってくださいね」
探偵がにっこりと微笑みかける。
「ええ、わかっています」
あたしはすでに二人殺しているから、
死刑は免れないかもしれないが、それでもいい。
探偵との約束通り、
どんな刑にも服すつもりだった。
サイレンの音が少し大きくなった。
「え、ええと。約束は守ってくださいよ」
探偵が、また言った。
「はい。それはちゃんと守ります」
サイレンの音はもう、すぐそこだ。
「だから、約束は守ってくださいって」
困った顔で探偵は続ける。
それから、手で口を覆い、小声で付け足した。
「ほ、ほら。あなたのポケットの小瓶ですよ。
第1の殺人で使った青酸カリがまだ残っているでしょ?」
【解説】
犯人は『約束』を
『探偵との約束通り、
どんな刑にも服すつもりだった』
だと思っている。
しかし、探偵は
『第1の殺人で使った青酸カリがまだ残っているでしょ?』
と言っていることから自殺を促している。
つまり、探偵が言っている『約束』というのは
「お約束」のことである。
ドラマの「お約束」だと
・最後まであがく犯人が探偵に襲い掛かって捕まる
もしくは
・最後に改心し、自殺をする
こうやって改心した犯人が
罪の重さを受け入れ、
罪滅ぼしに自殺をするわけだけれども、
毒を飲んで自殺した場合、
「まさか第1の殺人で使われた青酸カリをまだ持っていて、
それで自殺をするなんて…これはぼくのミスだ」
などと言って、カッコつける。
なので、探偵は念を押して
「最後に改心し、自殺をするお約束をしてね」と言っている。
よくドラマで
推理を崖のところでするけれど、
その崖から飛び降りる犯人もいる。
あれは、犯人に崖から飛び降りてほしくて、
そんなところで推理をしているのではないか?
などと疑ってしまうほど不自然である…。