私は夫と生まれたばかりの娘と三人暮らしをしていました。
夫の趣味はタツノオトシゴの飼育でした。
きっかけはどうやらテレビでタツノオトシゴの特集を見たことのようです。
はじめはインターネットの動画や画像を見るだけで満足していたようですが、
しばらくすると水槽を買い、タツノオトシゴを育て出しました。
繁殖もさせその数は増え、そのたびに新しい水槽を購入し、
ついに夫の部屋はタツノオトシゴの水槽で足の踏み場もなくなってしまいました。
そんな部屋でほとんどの時間を過ごしたためか彼は最近、
「タツノオトシゴになりたい」
と言い始めました。
私は心配になり、もししばらくしても改善しないようなら医者に相談しようと考えていました。
しかし「タツノオトシゴになりたい」というつぶやき以外は特に問題は無く
いつか私はそのことを忘れてしまいました。
数日後、私は娘の世話を夫に任せ外出しました。
帰宅すると夫は何やら台所の椅子に腰かけ、自分の腹を見つめ
やさしく擦りながら、にやにやと笑っていました。
【解説】
「タツノオトシゴ属のオスの腹部には育児嚢(いくじのう)という袋があり、ここでメスが産んだ卵を稚魚になるまで保護する。」(Wikipediaより引用)
つまり、夫は自分もタツノオトシゴのように子供を自らのお腹で育てたかった。
・・・というよりも、子供をお腹の中に入れてみたかった、
という方が適切だろうか。
『数日後、私は娘の世話を夫に任せ外出しました。
帰宅すると夫は何やら台所の椅子に腰かけ、自分の腹を見つめ
やさしく擦りながら、にやにやと笑っていました。』
から子供を食べてしまったことが連想される。
しかし、子供を食べてしまったら当然育てることなんてできないのだから。