僕は山が大好きだ。
暇さえあれば
国内のあらゆる山々を巡っている。
けれど生まれつき身体が弱いから、
登山はせずに遠くから望遠鏡で眺めるのが趣味だ。
今日訪れた山は比較的険しい山で、
とても僕なんかが登れるようなものではない。
ベテランの登山家でも、
気をより一層引き締めるような荒々しい山肌なのだ。
僕は山から五キロほど離れた宿を借り、
早速カバンから荷物を出して望遠鏡を組み立てた。
組みあがったそれをバルコニーに立たせ、
麓から山頂へと視点を滑らせていく。
と、山頂付近で
白いワンピース姿の女性がこちらに手を振っている。
思わず僕も望遠鏡を覗いたまま手を振った。
女性はにっこり笑うと下山を始め、
木々の影に隠れていった。
やっぱり登山する人にはフレンドリーな人が多いんだな、
と改めて実感した。
その数分後、
僕は荷物をまとめて慌てて宿を飛び出した。
【解説】
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