T氏は布団を被って寝る習慣の為、
目覚めても暗い中にいる。
その所為か朝の実感が湧かず、
二度寝入りするのは日常茶飯事だった。
そんな習慣で身についたのが、
夢の続きをみる事だった。
そしてそれは入院しても相変わらずだった。
ある朝目を覚ましたが、
「どうせ看護士さんが起こしてくれるし、夢の続きを見る事にしよう」
と、お馴染みの二度寝入りを決め込んでしまった。
今日の夢は幼い頃からの夢で、
今では諦めてしまった
オーケストラの指揮者になった夢だったのだ。
指揮する交響曲が悲しみを表現した部分に差し掛かると
観客席からは、感極まったのかすすり泣きが聞こえて来た。
自然、指揮にも熱が入るというものだ。
終盤では、夢とは思えないぐらい無中になり、
汗だくで指揮を終えた。
パチパチと観客席から拍手が起こり、
気分良く舞台袖に戻った。
本当に汗をたくさんかいたので、
目覚めようかと思ったが
観客席からの拍手はさらに大きくなり止みそうにもない。
どうせ目覚めても退屈な病室なのだ、
T氏はカーテンコールに応えるべく、
再び舞台上に戻った。
興奮は最高潮に達し、
体は更に熱くなり、
汗は滝の様に流れ出た。
「たまにはこんな夢も悪くはない」
T氏は目覚める事にした
【解説】
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